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予定不調和を入り口にした、自由讃歌と問いかけ “Chim↑Pom 芸術実行犯”

「芸術実行犯」Chim↑Pom (著)

もし観た事のない方であれば、先に「The Yes Men」による、この映像を見て頂くのが良いかもしれません。

イラク戦争の終焉など「偽のニューヨークタイムズ」の号外を作り、10万部街中で配布したアートプロジェクトの映像です。

New York Times Hoax – The Yes Men Fix The World

観た人の日常へ介入し、同時代で共有するあるテーマに対して批評を与える。

しかも観た人が、最終的にハッピーになるかたちで伝えて行く。

さらにそれが、Youtubeなどを介する事で、世界的に増幅されていく。

「世界へ語りかけ、問いかけるアート活動」と呼べるエッセンスが凝縮された、ストリートアートと思います。

美術館に訪れ、観る以外の「日常へ介入するアート」。

世界同時的に進行する、このようなストリートアートに対し、自分たちの作品だけでなく広く紹介する事で、「アート」としての姿勢を、真っ正面から正直に語られた、Chim↑Pomによる本です。


いつも見る「そこにあるもの」。

人々はそれを「こういうもの」で「こういう性質を持っている」と無意識に特定し、その安心感の集積によって日常を安定させています。

しかし、その風景がいきなり変わったり、風景に異物が入り込むと、見た人は「自分の日常」と「未知の変化」との間に何らかの関係を感じ、その安定が揺るぎます。

「謎」が日常に入り込むのです。

美術館に行くときは「謎に会うぞ」と心の準備もできていますが、公共空間は違います。

謎との出会いは突然のほうがヤバい場合がある。

日常を揺るがし、日常を疑わせ、日常を気づかせる…。

たとえば広告にはスリルがない。

例外はありますが、商品を売るという目的上、どうしても予定調和になってしまうからです。

この予定調和というものが社会や個人に与える影響は深大で、言うなれば世の中を成立させるあらゆる日常的なものにはこびる大前提のようなものです。




先ほどのプロジェクトでも言える事ですが、大切なのは、それら試みが単なる「いたずら」にとどまるものでない、という事だと思います。

「自分が今している表現は、それに触れる人々に対しどんな意味を持つのか?」

それを確信的に意識し、自ら顔をさらす事で、よりリアリティある手段を都度採用して提示していく、という事。

その「意義」の高さ、または「使命感」の高さ、という事だと思います。

TEDで2011年のグランプリを受賞した、JRのスピーチを聴く事でそれはより鮮明になると思います。

「まったく自粛しない態度」、

「自分の生き様そのものを世の中に差し出す事」、

そして「アートとは自由なものだけど、そもそも人間が自由なんだ」というメッセージ。

正直に、オープンに、真摯に、自由を讃歌する語りによって、強烈な光が未来からパアっ!と差し込んでくる。

ストリートアートのテーマの体裁を取りながら、実は生きる事そのものについてを、一人ひとりに問うている。

この本は、そういったものだと思います。

そして時代としても必要とされる、重要な本だとも思います。


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