Book
Leave a comment

用即美とプロセスを顧みる “柳宗理 エッセイ”

「柳宗理 エッセイ」柳 宗理 (著)

図面を描かず、スケッチもしない。

いろんな模型を「手」で作りながら、何度も何度も検討して、技術者もまじえて、作りながらデザインを考える。

柳宗理氏の、この「作って試してみながら、デザインを考えて行く」というプロセスにある、その本質的な理由。

即ち「デザイナーの本質な行為とは何か?」が、この本には凝縮されています。

ようやく読んだ本ですが、この書籍は、デザイナーだけに限らず、丁寧さや謙虚さを大切に生活を送っていきいと願う、すべての方へ届けられるべきものだと思いました。

機械によるマスプロダクションは需要を越えたオーバープロダクションとなり、必然的に同種生産会社の激しい競争となった。

そこで商品に対する購買欲をそそるためにデザイナーが狩り出された。

勿論ここで商品の質の改良という点にデザイナーが参画していれば、商品の向上に寄与するところが多かったろう。

ところが商品の内部的改良はエンジニアに任せてしまって、商品のアピアランスののみにデザイナーを利用したところに問題を宿していたのである。

ここでのアピアランスとは人の購買欲をそそるための外見上のアピアランスであり、生産者はこれをデザイナーに強要するのである。

ここにデザイナーは人の目につきやすいいわゆる刺激的な金ピカ趣味のデザインの傾向に走ることを余儀なくされたのである。

これが即ちインパルス・デザインの始まりである。

特に質の良くない商品ほど、けばけばしいあくどさを増していくことは、ちょうど暗夜の女のあくどい化粧の媚に似ているのである。

この内容には、例えば特にWEB広告の世界へ携わる方にとって、到底平気な顔で通り過ぎる事の出来ない、根本的な問題がえぐり出されていると思います。

きっとだれしもが、それらの仕事をしながら時に心の中で思う、でもなかなか声に出して言う事がしにくい、アンタッチャブルなある問題。

つまり「製品やサービスへ直接コミットせず、トレンドや技術やギミックによる言い換え表現に依った『あくどい化粧の媚』を連日生み出す広告キャンペーンのサイクル」へ加担している自分。

その上っ面さを、ここで看破されている事と同義だからです。

そしてその矛盾さ、不毛さに多くの人が疑問を感じている今だからこそ、次のような言葉が胸へ突き刺さるのだと思います。

デザインの至上目的は、人類の用途の為にということである。

デザインの創造とは、表面上のアピアランスの変化ではない。

創意工夫をもって内部機構を改革することである。

デザインの形態美は、表面上のお化粧づくりからだけでは出て来ない。

内部から滲み出たものである。

本当の美は生まれるもので、つくり出すものではない

デザインの特性は、それを生み出す環境、即ちそのバックグラウンドの表現であると私は思っている。

直接的にはその環境の中に育った社会を意味していよう。

即ちデザインの性格はそのバックグラウンドである社会の表現であると言えよう。

またこの環境とは、風土、気候、人種、文化、技術など、全てを含むことは言うまでもない。

世間では私のデザインをよく日本的だと言っている。

勿論私は私のデザインを日本的であると意識したことは一度もない。

私という日本人が、日本の土地にいて、日本の社会のために真摯にデザインすれば、ひとりでに日本的にならざるを得ないのである。




そして、この本ではもう一つ、デザインが持つ本質を示す重要な思想があります。

即ち「デザインのプロセス」についての在り方です。

デザインの成功如何は、デザインするプロセス如何による。

デザインするにはワークショップが大切である。

紙と鉛筆だけでは、デザインの基本的発想も、美しい形態も出て来ない。

ワークショップで物を造りながら、試み、考えるということが、デザインする上での最も有効な基本的態度である。

デザインの発想は、頭の中で瞬間的に出て来るものではない。

デザインの構想は、デザインする行為によって触発される。

デザインの構想は、デザイン行為の中で、それが完成するまで刻々変化するのが当然である。

だからデザイン行動の最初に、アイデア・スケッチとか、プレゼンテーションの絵を綺麗に画いて、基本的なスタイルを、それによって方向づけることはナンセンスであり、このような方法は虚偽のデザイン行動と言われるべきである。

マーケット・リサーチなるものは、デザインの創作にとって余り役に立っていない。

何故ならマーケット・リサーチは過去のデータの分析だからである。

それに反して、創造をモットーとするデザインの本来の使命は、過去に未だかつてない優れたものを生み出すことにあるからである。

パワーポイントで、メディアごとのストラテジーをチャートで作り、コンセプトシートを作り、サイトのワイヤーフレームを作り、プレゼン用のデザインラフを起こし、そこで決まった枠組みの中からはみ出さずデザインをし、開発する。

さらに職能ごとで分断されながら、ウォーターフォール的にリニアに進んで行く。

そんな予定調和のプロセスで、良いものなど生まれる訳が無い。

そんな分業では、規定的なモノしか生まれ得ない。

という「その逆を実践し続けた人だからこそ言える生きた声」による痛烈な批判です。




この本は、インダストリアルデザインについての本ではありません。

あらゆるデザイン行為の本質が、これ以上なく分かりやすく、そして強い言葉で語られた本です。

折りにふれ、読み返しては反省し、また前を向いて少しでも健全な道を歩んでいくための本。

手の届くところへ置かれるべき本だと思います。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です