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「ために」から「ともに」。方法論から参加論へ。 “インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン”

気づけばという感じですが、上半期もそろそろ終わり。
という事で、今回は今年読んだ良書のうちの一つ「インクルーシブデザイン」を、改めて少し整理してみます。



インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
ジュリア カセム 平井 康之 塩瀬 隆之 森下 静香 水野 大二郎 小島 清樹 荒井 利春 岡崎 智美 梅田 亜由美 小池 禎 田邊 友香 木下 洋二郎 家成俊勝 桑原あきら
学芸出版社
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これまでの、特に大量生産型の商品やサービスの提供シーンにおいては、前提としてメインターゲットとはなりえなかった、言わば「公然のターゲット外」として、排除(エクスクルージョン)されてきた人々がいます。
例えば、身体的な障がい者や高齢者、などです。

その排除されてきた彼らを、パートナーとしてデザインプロセスにインクルード(包括)していこう、それにより、より広い視野やアイデアを獲得し、普遍性ある商品やサービスを開発していこう、というのが、「インクルーシブデザイン」のコンセプトです。

Inclusive-Design-fig01
ただ、このコンセプトを通過する限りだと、いわゆる「共創」的な、より関わるパートナーが拡張された「デザインプロセス論」のように捉えられると思えます。

もちろん結果として、身体的な障がい者や高齢者など、エクストリームな(極端な)ユーザから学ぶ事で、これまでにないデザインアイデアが生まれる可能性も高まるかもしれません。
また、例えば高齢者向けに商品を作るのでなく、高齢者「にも」受け入れられるモノを作れば、むしろ結果的にその商品は全体の市場を広げる事になる、というポテンシャルも大きいと思います。
それもインクルーシブデザインにおける理解の一つであり、得られる期待や効果と言えるでしょう。


が、本書を読む限り、インクルーシブデザインには、それだけでなく「社会参加論」としての機能や可能性も言及されています。
改めて、自分たちの手で、分野を超え、社会的な課題を解決するための知恵を持ち寄ろう。
そういった意図を持って、デザインへ関与していこう。
言わば、「方法論」から「参加論」へ、という現代的かつ切実なテーマに対する一つのアプローチが含まれています。

その象徴が、本書内ジュリア・カセム氏が定義する、排除(エクスクルージョン)されてきた人々の定義です。

排除(エクスクルージョン)された人々とは、先ほどの図にあった人々だけでなく、以下のような人々もここでは該当されるとして、定義されています。

Inclusive-Design-fig02
ここでの問いとは、「彼らに対し、どんな新たなモノやサービスを提供すれば良いか?」ではない、という事です。
彼らをマーケットとして、拡張ターゲットとして考えるのではない、と言い換えても良いでしょう。
また、彼らを「保護すべき対象者」として考えるのでもない、という事です。

「どんな環境を、どんな機会を、いかに適切に提供する事ができるか?」という問い。
どんな境遇にある人であれ、高齢者なら高齢者なりの、障がいを持つ人ならその人なりの、それぞれが役割を果たし、社会に参加できる仕組みがあるはず。
その参加の仕組みをデザインする事が、インクルーシブデザインである、というコンセプトです。

言い換えると、「自分ができる事は何か?」をそれぞれに問い、積極的に関われる仕組みを、「ともに作る」ためのアプローチであり、運動とも言う事が出来るでしょう。

少子高齢化や、格差や貧困問題、そして災害を経た今だからこそリアリティを持つ、社会が健全に持続していくための参加論。

本書内では、
・障がいのある人が、アートを仕事にできる環境を作る事を目的とした、「エイブルアート・カンパニー」の試み
・障がいのある人のアートを座面に使用した、コクヨファニチャー(株)とのコラボレーションによる、ロビーチェア「アートマドレ」の試み
などが紹介されています。

特に、障がいがありながらもアートの領域で才能を発揮する人たちを、その特徴を活かして社会に参加できるよう支援する「エイブルアート・カンパニー」の試みは、是非多くの人に知ってもらいたいとも思います。

エイブルアート・カンパニー


単にデザインプロセスの方法論としてだけに括る事が出来ない、社会参加論としての性格も併せ持つインクルーシブデザイン。

今年上半期における、デザインの現在とこれからを考えるうえの超良書です。


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